最先端の教育 世界を変える学び手

アレックス・ベアード/著 岩崎 晋也/翻訳

出版年月:

ページ数:464

ISBN:9784491035895

2,530 円(税込)

創造的な教育を求めて、世界中を駆け巡る!

■「学ぶことは人類の受け継いできた本能的なスキルである。」
人類は学びを積み重ねて、さまざまな技術を磨き、進歩してきた。しかし、教育現場は人間の進歩との接触を失っている上、最先端の教育技術や理論をシェアすることも乏しいのが現状だ。
イギリスの高等学校の教師だった著者のAlexBeardは、世界20か国以上を訪問し、教育の達人たちから、人工知能を用いた学習法や幼児の脳の理解の高まりにある理論など、最先端の教育の現在地を網羅的に調査した。

例えば、アメリカ・ロサンゼルスのメルローズ小学校併設の幼稚園では「iPadのジェダイ」と呼ばれる、ウィリス先生の授業を見て、「大事なのはAIだけではなく、『人間+機械+巧みなデータ処理』」であることを気付く。
ウィリス先生のクラスでは、画用紙やクレヨンと同じようにiPadが存在している。5歳の園児を指名すると、ブルートゥースでプロジェクターに接続し、動画を流し始めた。それは絵本を紹介する簡単な動画で、自分一人で作ったという。音声が入っていなかった別の子には録音ボタンを一緒に押してあげ、音声を入れなおして再編集し、わずか2分ほどで動画を作り上げた。
ウィリス先生にiPadのよさを尋ねると、「紙飛行機をつくろう」という活動のことを聞いた。家族や図書館の本ではなかなかいい解決策がなかった。そこでiPadを使うようにサポートしたところ、フロリダの紙飛行機が大好きな7歳の子どものビデオブログが見つかり、子どもたちは紙飛行機をつくることができるようになったという。テクノロジーを使うことを前提としていなかったタスクでも、そうしたことが可能になる。
「テクノロジーは子どもができることを増やすけれど、それは教師の直接の指導も同じ。誰が、どう使うかが重要だ」。ここにいる5歳児たちは、iPadが学習への入り口であることを理解している様子だった。

■教育の最前線での共通点を明らかに
〈主な取材先〉
KSA、ガリオンズ小学校、スクール 21、KSA、キングソロモンアカデミー(以上、イギリス)、 KIPP、MIT メディアラボ、ブレイクスルー校、ペングリーン幼児センター、ハイテック・ハイ、サミット(以上アメ リカ)、ヒーデンキビィ基礎学校(フィンランド)、大学入試事情(韓国) …etc

最先端の教育現場を訪れ、いろいろな試行錯誤に触れたうえで、著者は以下の3つの共通した発想に気付く。

 新たな視点で考える
 能力を高める
 人を思いやる

本書は、21世紀の学習を変革するためのユーザーガイドであり、私たちのより良い未来へのアクセスへのロードマップなのだ。

「いまから50年後、私たちは教師を現在の医者のように尊敬しているだろう。
(中略)教師は誇りにあふれ、自主的で高い技量を持ったプロフェッショナルであり、   
学習というものに精通している。」(本文より)



〈本書で紹介される著名な教育関係者の発言〉
アンドレアス・シュライヒャー(独) PISAの生みの親 OECD教育局次長
「伝統は本当に、よい実践の敵だ!」

スガタ・ミトラ(英) 「壁の穴」実験でTED賞受賞の教育科学者 「クラウド上の学校」設立を目指す
「適切な技術的サポートがあれば、子供たちは自分で学習できる」

ジョシュア・ウォン(台湾) 雨傘革命の主導者 真の意味の学習者
「批判的でなければならない。愛する街のことを考えて」

サク・トゥオミネン(芬) フィンランドの教育プロジェクトを手がけるテレビプロデューサー
「創造性は改善への意思だ」

ブレット・シルク(米) 未来のリーダーを育てるシンギュラリティ大学の責任者
「AIが何をしているか理解しなければならない。ロボットに支配される前に」

ニコラ・サディラック(仏) 運営AIのプログラマー養成学校「42」の創設者
「伝統的な教育は創造性を奪う。大切なのはソフトウェアだ」

アンジェラ・ダックワース(米) 「やりぬく力」グリットの提唱者で、心理学者
「成績や知性とは関係ない性格が、長期的な成長には欠かせない」

フィリップ・シュミット(米) 「ハック」文化の中心・MITメディアラボ、イノベーション部門のディレクター

はじめに  ふたつのアカデミーの物語
光のなかへ/新任教師の失敗/解決策/上手に間違える

第一部  新たな視点で考える
1 人工知能 ――才能あるコンピュータ・マニア 
ロボット教師がやってくる/コンピュータは新しい本なのか、新しいテレビなのか
コンピュータは本を超えるかもしれない/教えることと、学習する機械
結局、ロボット教師は出現しないかもしれない/ハイブリッドの原則
チェスの教訓/私は心配をやめ、AIを好きになった

2 学ぶために生まれた ――赤ん坊のように進む 
はじめに言葉ありき/言葉の格差/ゆりかごのなかの科学者
人間の認識の起源/人間のための自然保護区
学習曲線の形/子供が大人を教える!
世界最大のホームビデオ・コレクション

3 脳は成長する ――フロー体験 
山を登る/知性の限界/海のナメクジが告げる新たな真実
学習に夢中になる/必要なことはなんでもやる/アテンション・ゲーム
イギリス一頭がいい学生/ポイントは、苦しみを乗り越えること
誘導されたユーザーのパラドックス/適度な困難のむずかしさ

第二部  能力を高める
4 ジャスト・ドゥー・イット ――ゆりかごから職場まで
十分にできるまで止めない/学ぶ者は仕事を与えられる
さようなら、いままで魚をありがとう/子供たちが気ままにふるまえる都市
「なんでも知りたい」という態度が未来をつかむ/機械の愛に見守られて
成功は学びつづけることにある

5 創造 ――創造者に会う
野生の子供/習うより慣れよ。ただしそこから新しいものは生まれない
フィンランド人の教え/すべての学校は美術を教えるべき
すべての学校は技能を教えるべきなのかもしれない
あいだの白い部分/探索と活用

6 一流の教師 ――教育界の達人たち
ロボット教師は出現しない!/医師から学べること
塵も積もれば山となる/2シグマ問題/教えずに教える技術
生まれつきの専門家などいない/習うより慣れよ/百聞は一見にしかず

第三部  思いやり
7 ビッグデータ ――人生の分析
試験の時間/大事でないはずのものが大事なのだ
データなしでは、あなたは意見を持ったただひとりの人間にすぎない
トップを目指す競争/私たちはみな科学者だ
世界一頭がいい子供たち/新たな宗教

8 やり抜く力 ――人格の形成
知識は力なり/人格を構成するもの
君が降参しないと、私は死ぬまでやめない/永遠のその先へ
食べるべきか/安らぎを吸いこみ、気がかりを吐きだす
人はかならず死ぬ/人生は理想どおりではない

9 マインドコントロール  ――大義ある反抗
教育か、反抗か/真実はそこにある/過激化する
知れば知るほど、自分は知らないということがわかってくる
大国に抗う少年/自分の土地と彼らの土地 /わずかな知識は危険なものだ

第四部  まとめ
10 上手に間違える ――オープンソース
バック・トゥ・ザ・フューチャー/規模のメリット
システムが私たちを作るのではない。私たちがシステムを作るのだ
学習機械、再考/学習の将来は未知だ

学習革命
教育は特効薬だ/1 学びつづける/2 批判的に考える
3 創造的になる/4 人格を鍛える/5 早期教育
6 協力/7 指導力を高める/8 テクノロジーを賢く使う
9 未来を作る/私たちがシステムだ

謝辞

アレックス・ベアード

教師として働きながらロンドン大学教育研究所で修士号を取得。その後現場を離れ、すべての子供が持てる資質を開花させることを目的とする、それぞれが独立した組織からなるネットワーク、ティーチ・フォー・オールに参加する。現在は世界各地で行われているすばらしい教育的取り組みを取材し、その成果を46カ国の教員、学校運営者、政策決定者らと共有している。


岩崎 晋也

書店員などを経て翻訳家。訳書に『アーセン・ヴェンゲル』『もうモノは売らない』(以上東洋館出版社)、『トレイルズ』(エイアンドエフ)、『海について、あるいは巨大サメを追った一年』(化学同人)、『自然は導く』(みすず書房)など。